約束の場所へは少し早く着いた。
天気は雨。
いつも賑やかな森林公園も
今日ばかりは人影もなくひっそりとしている。
あたしはお気に入りの傘をさして
うっすらと霧のかかる池の前で大好きなあの人を待つ。
・・・rainy day・・・
「悪い、遅くなった。」
聞き覚えのある声に
あたしの表情は一気に緩む。
振り返ると雨の中
傘もさしてない志波君の姿。
「志波君、濡れてるよ!」
「あぁ・・・夕方まで持つかと思った、雨。」
髪の毛にキラキラ光る雨粒をのせて小さく笑った。
「体冷やしちゃダメだよ!!」
来月は甲子園への切符をかけた
大切な試合が控えている。
志波君が居ないと言う事がどれだけ試合に影響するか
マネージャーのあたしはよく知っている。
そんな事
絶対にさせる訳にはいかない。
急いで傘を手渡し
カバンの中からハンドタオルを取り出す。
幸い、降り出したばかりの雨で
体は思った程濡れてはいなかった。
良かった・・・。
志波君はあたしよりもずっと背が高く
背伸びしてもジャンプしても濡れた頭には届かない。
じっと上を見ているあたしを気遣ってくれたのか
傘と一緒にそっとかがんでくれた。
目の前に来た、日焼けしたその顔に
どきりとして右手のタオルを落としそうになる。
そして照れ隠しに出た言葉。
「今日はもう帰った方がいいよ。このままじゃ風邪ひいちゃ・・・・。」
視界がふさがれて
唇に感じたほのかな熱。
「いやだ。」
低く甘い声に体がしびれる。
さっきよりももっと近くにある志波君の顔。
音のない公園。
霧はさっきよりも濃くなっていて白く公園を包む。
この世界にはあたし達だけしか居なくて
このまま2人
この霧に包まれて溶けていってしまいそうで。
志波君と2人ならそれもいいな・・・。
「ありがとな、。」
聞こえた声と頭の上に置かれた手の温もりで
あたしははっと我に返った。
短時間であっても
志波君の前で妄想にふけってしまった自分に
恥ずかしい思いでいっぱいになる。
タオルを握り締め下を向くあたしに
志波君は続けた。
「1回じゃ・・・足りないか?」
「・・・っ!?」
「じょーだん。」
そう言ってくっくっくっと含み笑いをした。
あたし、からかわれてる?
さっきのキスも・・・冗談?
「志波君のバカ!!!」
タオルを押し付けて
雨の中勢いよく歩き出すと
パシャリと音を立てて水が跳ねた。
「!悪い、怒ったのか!?」
後ろから慌てる志波君の声。
ちょっと貴重だから聞こえないふり・・・。
あたしが風邪ひいたら志波君のせいなんだからね。
看病して貰うんだからね。
腕に感じてた冷たい感触が止まる。
見上げると
ちょっと高い位置にあるあたしの傘。
「家で着替えてから仕切り直しだ。」
「・・・ランチは美味しいパスタがいい。」
「分かった。」
「・・・志波君のおごりで。」
「分かった。」
「・・・デザートにフルーツパフェも。」
「分かった。」
ちょっと可愛そう?
心の中で舌を出す。
あいあい傘
ここを出るまでにあたしの手を握ってくれたなら
許してあげてもいいよ。
でも。
我慢できないからあたしからにぎっちゃう!!
「の手、温かいな。」
「志波君の手は冷たいね。」
「手の冷たい人間は心が優しいって言うからな。」
「それ、どういう意味!?
よし。アナスタシアのチーズケーキ追加ね。」
「・・・っ!!悪かった、許してくれ。」
「ダ〜メっ!」
小さな傘の中、ぴったりと寄り添う2人の上に
6月の雨は優しく降り続ける。
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