+++You are Mine+++




放課後の羽ヶ崎学園。
の目は一人の人物を捜す。
教室、廊下、図書館、階段の踊り場、中庭・・・
きょろきょろしながら小走りに駆けていく。
右手に持たれた紙袋が走る度にかさかさと音を立てた。

、どうしたん?」
教室の中から声をかけてきたのは親友の西本はるひ。
「志波君を捜してるんだけど・・・。」
「志波やんならグランドにおったで。」
はるひの言葉にの表情はぱっと明るくなる。
「はるひ、ありがと!!」
「何や周りにぎょうさん人がおったけど・・・って
最後まで聞いてたやろか?」
小さくなっていくの後ろ姿を見ながら一人つぶやいた。






バックネットの影が長く落ちるグランド。
その横を練習を終えた部活生達が各部室へと向かっていた。
校舎の前、グランドへ続く階段の上から目をこらして姿を捜す。
眼下には数人の野球部員が後片付けをしているものの
そこに志波の姿は無い。

きゃあぁ!!!
突然聞こえてきた黄色い声の方へ目をやると
野球部の部室の前に見えた集団の中
頭一つ抜き出た長身の生徒。
「志・・・」
喜びのあまり出た言葉だったが
最後まで言い切る事は出来なかった。
目に映ったのはマイクを持ち駆け寄る女性とカメラクルー2名の姿。
志波を囲む女子生徒の中には見慣れない制服もある。
ざわめく心、5段ほど下りた場所での足は止まった。


先週末に行われたはばたき市長杯の野球大会。
高校生の部に出場した羽学野球部は順調に勝ち進み
優勝候補であるA高校との決勝を迎えた。
羽学2点負け越しの9回表
クライマックスを迎え、両校の応援はヒートアップする。
次のバッターは志波。
ここで点を取らなければ羽学は負ける・・・。
2アウト2ストライクと追い込まれた志波だったが
プレッシャーを見事にはねのけレフトへ逆転のホームランを打った。
そして9回裏、羽学は得点を許さずA高校を破り優勝した。
優勝の立役者となった志波は
実力とルックス、そのクールな性格が地元メディアの目に止まり
試合後からインタビュー攻めにあった。
特集まで組む番組も出てきて
言うまでもなく女性ファンが急増した。

またテレビの取材なんだ・・・。

女の子達の手には花束やカラフルな包装紙のプレゼントが見えた。
恐らく志波に贈られる物なのだろう。
それら全てが豪華なプレゼントに見えて来て
自分が渡そうとしているものがとてもちゃちなものに思えて来て・・・。
は思わず左手の紙袋をそっと後ろに隠した。

志波との距離は決して遠いものではなかった。
お互いの顔は少し目を凝らせばはっきりと確認できた。
しかし、カメラや女子生徒に囲まれている志波に
自分を見つける余裕は無いだろう。
どうしても今日渡したかったプレゼント。
だけど、あの集団の中に入る勇気は無い。


太陽は校舎の向こうに姿を消し、あたりは淡い紫色に包まれる。
ちくちくする胸の痛みをこらえながらは静かにその場所を後にした。
志波の笑う顔が見たかった。
プレゼントを受け取り
きっと「さんきゅ」と照れくさそうに笑うのだろう。
脳裏に浮かんだ笑顔は吹いてくる冷たい風と共に消えていった。











重い足取りで教室に戻れば、そこはもう黒の世界。
廊下の明かりを頼りに自分の机にだけ残されたカバンを取る。

これ、どうしよう・・・。

小さくため息をついた時だった。
。」
名前を呼ばれてはっとする。
その声の主は紛れもなく、自分が会いたかった人の声。
「・・・何で!?」
「何でって、お前を追って来た。」
「テレビの人は?」
「ちょうど佐伯が通りかかって、学園の王子様特集の取材をするとかって
俺のインタビューは早々に終了した。勝手なもんだ。」
「女の子・・・達は?」
「さぁ。」
「さぁって・・・。」
いつものマイペースさに正直ほっとした。

どんなに周りにもてはやされても
我関せずな所が志波らしくて大好きだったのに
女の子達に囲まれる姿を見て勝手にヤキモチを焼いて勝手に諦めて。
あたしは何も志波君の事を分かってない・・・。
本人を目の前に器の小さな自分を反省した。

制服姿の志波、ゆっくりと歩み寄りの席の後ろに座った。
「俺に用事があったんだろう?」
まっすぐ見つめる黒い瞳に捕らわれて体が動かなくなる。
2人きりになるのは初めてでは無いのに
その瞳に見つめられるといつも金縛りに合ってしまう。
「それを確かめに来た。」
ドキドキと早まる鼓動。
志波はあの場所からの姿を確認していたのだ。

「・・・これ、貰ってくれる?」
「当たり前だ。」
紙袋からそっと箱を持ち上げ前に差し出した。
「お誕生日おめでとう・・・。」
「さんきゅ。これ、開けていいか?」
「ここで!?」
の返答を聞く間も無く、志波はリボンを解き出す。
ゆっくり持ち上げた上蓋の下から現れたのはチョコレートケーキ。
「手作りなのか?」
「もちろん!昨日頑張って作ったんだよ。」

これを渡す為にわざわざグランドまで来た
自分の為に作ったケーキ。
だが、女子生徒に囲まれる姿を見て目的を果たさずに戻って来た。
どんな思いでここに戻って来たのだろうか・・・。
そんなの心情を思うと志波の胸はぎゅっと締め付けられた。



甘い香りの中、志波は机の上のケーキにがぶりと口を付けた。
「志波君っ!?」
突然の行為に目をまん丸くする
「すごく美味い。」
口はしに付いたチョコをぺろりと舐め、やわらかく笑った。
磨りガラスから入る淡い光の中、志波はとても優しい顔をしていた。
2人だけの、とてもとても幸せな時間。

「じゃ、あたしも!」
「お前、俺の為のケーキだろう?」
「いいじゃない、味見味見!」
志波のかじった反対側に小さなかじり跡が出来た。
「ホント美味しい!あたし天才!!」
「自分で言うか。」
そう言って志波は笑う。

「あ。」

その刹那口はしに感じた温かい感触。
目の前にある大きな影。

すとんと椅子に座った志波の姿を確認してから状況を把握した。
「な、なな、な・・・なっ!!」
「くくくっ、歌の練習か?面白いヤツ。」
全身がドクドクと音を立てる。
上手く言葉が出て来ない。
「ごちそうさま。美味かった、いろいろと。残りは帰ってから食う。」












の思考回路が繋がったのは「帰るぞ。」の言葉の後だった。
志波の手に持たれた紙袋。
自分がケーキを紙袋へ直した気がするし、何か会話もした気がする。
靴箱までの間、ずっと考えてみたものの
どうしても思い出せなかった。
それだけ衝撃的な出来事だった訳で・・・。

すぐ前を歩く志波の後ろ姿を見ながら思う。
短い時間の中でいろんな事が起きた1日だったと。

初めての志波君の誕生日
今日中に渡す事は出来ないだろうと思ってたプレゼントは
無事に渡す事が出来て、思いも寄らない事まで起きてしまって。
あたしにとって
ドキドキとハッピーが一度に訪れたびっくりな誕生日だった。
今日の日を一生忘れない・・・。

そう思った時、志波が振り返った。
「お前の誕生日、何が欲しい?」
「ぷっ・・・!お前のってまだ今日は志波君の誕生日だよ?」
「・・・そうか。じゃ、まだ何か欲しい物があったらリクエストしていいのか。」
「え?ちょ、ちょっと待って、志波君!?」
近付く志波にの抵抗は全く無駄なものだった。












志波からの誕生日リクエストが何だったのかは秘密。
それを知っているのは夜空に輝く一番星と
ヒロインであるあなただけ・・・。








なぁ、
来年も、その次も、その次の年も・・・ずっと一緒に祝って欲しい。
本当はお前が横に居てくれるだけで、それだけで十分なんだ。

お前の誕生日、何でもその願いを叶えてやる。
今から楽しみだ・・・。












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