You Can't Hurry Love


 カーテンの隙間から覗く、朝日。
 前髪を擽られるような光に、やんわりと目が覚める。

 朝か・・。
 今日は日曜だし・・もうちょい寝るか・・。

 新一は頭の中で曜日確認をして、コロリと寝返りをうった。

 そして。

 半覚醒だった瞳が、徐々に大きく見開かれる。
 寝返りをうった先にいたのは・・

 ・・・は、はっとり〜?

 驚きのあまり、声が出ない。
 しかし、確かに新一の横には、安らかな寝顔をしている服部平次がいたのだった。

 白い天井。
 見なれた自室。
 間違いなく、新一の部屋。

 ・・・俺のベッド・・だよな?
 なのに、どうして横に服部が・・・?
 どう・・なって・・?

 新一は激しく動揺しながら、それでも状況を整理しようとしていた。
 整理しようとして・・身体にかかる毛布の感触が、直で肌に伝わっていることに気づく。
 不思議に思いながら、ちらりと毛布をめくり・・何も身につけていない自分に動揺が深くなった。

 は、裸・・なのか、俺?
 しかも何か・・身体がダルいってか・・痛いってか・・。

 毛布をめくる動作だけで、腰の辺りにニブい痛みを感じ、新一は顔をしかめた。
 それだけじゃない。
 頭の奥で鐘が鳴っているような・・気持ち悪さ。
「な、何がどうなってんだ・・?」
 疑問を口にして、新一は前髪をかきむしった。
 と、その声が聞こえたのか、平次の肩がピクリと動いた。

「ん・・朝かいな・・?」
 目をこすりながら、平次はのそのそと上半身を起こした。
 ふわぁと欠伸をしながら、横を見て・・寝ぼけ顔が一気に正気へと変わった。

「く、くくくくどぉ?な、何で横におるねん?しかも・・はだ、裸っ・・?」

 平次に指をさされ、新一は自分の格好を思い出した。
 毛布で自分の身体を隠しながら、

「み、見んな・・ってか、お前も裸じゃんか」
「へ?な、何でオレ、裸なん?」
「それは、俺が聞きたいって!」
 押し問答していても、埒があかない。
 二人は顔を見合わせて、フーッと大きなため息をついた。

「・・昨日、どうしたんだっけ?」
 先に口を開いたのは新一だった。
 その言葉に、平次はうーんと唸りながら、思い出しつつ口を開いた。
「昨日は・・オレが夕方、ここに来たんやな・・そんで一緒に夕飯食べて・・そや、酒を飲んだんや」
 酒、の響きに新一も思い出し始めた。
「そうだ、一緒に酒飲んで・・飲んで・・?・・・わりぃ、その後・・覚えてねぇ・・」

 最初はビール一杯だったのが。
 秘蔵のワインが加わって。
 平次の持ってきた焼酎へと・・変わる頃から、記憶が曖昧になってきている。

 それは平次も同じらしく、
「焼酎とワインを、混ぜて飲んだとこまでは覚えとんのやけどな〜」
 などと、ブツブツ言っている。

 新一はフッと笑うと、
「要するに、酔っ払って服脱いで、一緒に寝ちまったって訳か。ま、仕方ねぇよ。風呂にでも入ろうぜ」
 話題をそこで切り捨てようとして、ベッドから起き上がり・・かけて、フラついた。
 倒れこむように床に座り、新一は身体の違和感に気づく。

 何だってんだよ?
 何か・・・身体の中に入ってるような・・?

「工藤、大丈夫か?寝ぼけてんのやないか?」
 床に手をついた新一を見て、平次はからかうように笑った。

 途端。

「う・・うわっ!」
 新一の、甲高い悲鳴が家中に響く。

「く、くどぉ?」
 倒れた拍子にケガでもしたのかと心配し、平次は駆け寄った。
 抱き起こしてやろうかと手を伸ばしかけて・・止まる。
 それもそうだろう。

 座っている新一の太ももを・・白い液がツゥと流れるのを、見てしまっては。




 リビングの床という床に、転がっている酒ビン。
 平次はそれを片付けながら、ちらりと浴室のドアを見た。
 自分の身体から出てくる液を見た新一は、そのまま浴室に走り去ってしまった。
 かなりヨロけながら・・その顔は、何かの痛みに耐えているようで・・。

 ようやく片付けが終わると、平次はソファに深く腰掛けた。
 思い出せないことだが、それでは済まされない状況というのは明白だ。

 裸でベッド。
 新一の様子。
 それと・・自分の身体。

 妙に清々しい自分の身体の状態に、平次は頭を抱えた。

 ・・どう考えても、ヤッとるなぁ・・。

 何度か覚えのある、この感じ。
 けだるい中にも、満足できた・・と、感じるこの状態。
 平次は、まだ出てこない新一を待ちながら、浴室のドアをもう一度ちらりと見やる。

 怒っとるやろなぁ・・。
 いや、軽蔑されとんのかもしれん・・。
 まだ、告白もキスもしとらんのに、いきなりやし・・。
 てゆーか、なして全然覚えとらんねん、もったいな〜!

 ・・多少、思考の方向にズレが出てきたところで。
 カラリと音がして、浴室のドアが開く気配がした。
 出てきた新一は、頭にスッポリとバスタオルを被り、表情が見えない。
 スタスタとリビングを横切り、キッチンの中へ消える後姿を見ながら、平次は不安で仕方なかった。

 ずっと恋焦がれていた人から、どんな言葉が飛び出すのか。
 軽蔑や侮辱の言葉を真正面から受け止めることはできても、別離の言葉だけは聞きたくない。
 嫌われても側にいたい気持ちには、変わりない。
 しかし、あんな事をしでかした手前「もう二度と来るな」と言われれば、それに従うしかない。

 ・・土下座でも何でもするさかい、それだけは勘弁や〜・・。

「・・おい」

 新一の声が聞こえ、平次は顔を上げた。
 キッチンから出てきた新一の手には、コップと発泡酒が握られている。
 それらをテーブルに置くと、新一はイスを指差して平次を呼んだ。

「・・迎え酒。付き合えよ」

 バスタオルを取り、静かに言う新一。
 平次はゆっくりと立ちあがって、新一に従う。
 向かい合わせのイスに腰掛けると、新一が二つのコップに酒を注いだ。

「・・おおきに」

 平次は自分の分を受け取ると、ちびりと口をつける。
 正直言って、飲みたい気分ではないが・・今の新一には、逆らえない。
 しばらくの沈黙と、新一の伏せられた顔。
 それに耐えかねた平次が、謝罪の言葉を口にしようかと考え出した時。
 新一が、確認するように言葉を発した。

「あのさ・・服部。やっぱ俺達・・したんだよな?」
 平次は申し訳なさそうに目をさまよわせ、
「・・そうやと思う。曖昧な答えで悪いんやけど、あんま覚えとらんのや・・」
「いや、俺も同じだから・・」

 どちらが悪い、という訳ではない。
 それが分かっているからこそ、何だかぎこちない空気が流れていた。
 新一はそれを払拭するように、

「とにかくさ、服を破かれてた訳じゃないし、一緒にベッドに・・いたんだから、合意の上って事だよな」

 最後の方は、恥ずかしさからか顔が赤らむ。
 それでも、新一は続けた。

「俺、お前との付き合いをこんな事で無くしたくないし・・忘れてくれよ。俺も、忘れる」

 新一にとって、精一杯の譲歩だろう。
 嫌われてない。
 それどころか、自分が必要だと告げてくれる新一に、平次は目を見開いた。

「工藤・・」

 願っても無い、言葉。
 このまま、側にいられる。
 ただ「分かった」と言えば、昨日までの関係が継続される。
 良かった・・そう思った反面、平次の心に言いようの無いものが訪れた。

 このまま・・友達のまま・・。
 ええやんか・・それで。
 ・・せやけど・・

 平次は、コップを持つ自分の手を、ジッと見つめた。
 新一を抱いたことは・・・最後まで、覚えていない。
 けれど、この手で触れた新一の肌の感触を・・わずかながらも、覚えている。

 白い肌が自分の手によって色を変え、しっとりと馴染んでいく様子を。
 見る度に、触りたいと願っていた鎖骨を撫でまわし、唇で触れたことを。
 その後、自分がどう動いたのか。
 どんな風に新一を抱いたのか・・・くやしいが、思い出せない。

「・・服部?」

 即答しない平次をいぶかしんだ新一が、首を傾げながら声を掛ける。
 まだ乾ききっていない髪の先から、雫がポタリとテーブルに落ちた。
 湯上りの、火照っているような新一の頬。
 ほんのり紅に染まった色に、平次の記憶が揺さぶられる。

『へ、平次っ・・んぁっ・・』
 平次の名前を呼びながら、腰をくねらせる新一。
 口の端から、飲みこめない唾液がポタリと落ち、肌をすべっていく。
 その雫がシーツに飲みこまれるのを見て・・興奮が高まる自分。

 ・・・フラッシュバックのように蘇った、光景。
 新一を組み敷いた時の事を思い出し、平次は口元に手をあてた。

 ・・うわっ・・オレ、何を思い出してんのや・・。

 こんな時に・・とは思うが、一度思い出した記憶はイモズル式のように平次の脳に広がった。

 そぉや・・ベッドでじゃれあって・・そのうちエスカレートして・・。
 オレは・・工藤ん中に・・・。

 一つ思い出した光景は、その前後の記憶までも呼び戻した。
 新一に触れ、愛撫し、そして・・・。
 最初から最後までを、反芻するように思い出した平次は、ブンブンと頭を振った。

「は、服部?」

 その様子を見ていた新一は、不安を通りこして心配そうに平次を見守る。

 ・・こいつ、どっか変・・?

 新一は、自分との行為のせいで、どこかおかしくなったのかと訝しんだ。
 しかし当の本人は、一気に思い出した記憶のせいで、鼻血が出そうなのを我慢するため必死。
 特に、新一がイく時の顔などを思い出した日には・・反応した身体を我慢するのにも、必死というもの。

 ・・あかん!
 このまま、友達なんか無理や!
 あんな工藤を知ってもぉたら、もうあかんて!

 平次はキリッと唇を噛むと、新一を真正面から見据えた。
「ど、どうしたんだよ、服部・・」
 あまりに真剣な目をした平次に、新一は身じろいだ。

 と。

 いきなり伸びてきた平次の両手が、新一の右手を包み込み、

「好きや、工藤!」

 という、脈絡のない言葉を紡ぎ出した。
 それに対しての返事が、

「はぁ?」

 なのは、仕方ないことだろう。
 新一は、ハァとため息をついて、

「服部、お前・・俺の話を聞いてたのかよ?」
「おう。ちゃんと聞いとったで。このまま何事もなく、友達でおってくれるゆー事やろ?」
「そう、だよ。だから・・」
「それやと、困るんや」
 新一の言葉を遮り、平次は手に力を込めた。

「オレな・・ずっと前から工藤ん事が好きやったから・・友達やと困るんや」
「す、好きって・・俺?」
「そうや。側におれれば、友達でもえぇて思てたけど・・あんな工藤を見てもぉたら、友達なんか無理やて」
 平次の言葉に、新一はハッとした。

「あんなって・・お前、昨日の事を覚えてんのかよ?」
「全部やないけど・・断片的に覚えとる。工藤がめっちゃ可愛ぇ顔して・・」
「うわーーー!もう言うな!」

 新一は、握られていた手を振りきり、自分の耳を塞いだ。
 すると、平次が目に見えてショボンとうなだれる。
 大型犬がおあずけをくらっているような様子に、新一は苦笑した。

 ・・好き・・か。
 そんなの、俺だって前から・・。
 だから、お前との縁を切りたくなくて、忘れようって言ったってのに・・。
 んなの、気がつかねぇんだろうな・・。
 ニブイんだか、何なんだか。

 新一は、まだ口をつけていなかった、自分のコップを手に取った。
 ビールの泡が、震えて弾ける。

「・・ほら」

 それを、平次に向かって突き出した。
 何のつもりか分からず、今度は平次が首を傾げる。
 新一は、目線をテーブルに落とし、

「何か間違いだらけって気がするけど・・とりあえず、俺もお前の事、キライじゃないし・・」
 甘くない言葉を囁いた。
 それでも、意図は通じたらしい。
 平次の顔が、みるみる明るさを取り戻し、

「・・ほんまに?」
 信じられない・・・といった含み。
 それに少しジレた新一は、

「・・何度も言わせんな。乾杯、しねーの?」
 わざと、コップを置きかける仕草をする。
 それに慌てた平次は、急いで自分のコップを持ち上げた。

 チンッ・・と短い音。
 心地よく部屋に響いたガラス音に、平次はニッコリと微笑んだ。

「工藤、好きや。ずっと側におらせてな・・ほんまに、好きや」
 順番が、間違いだらけという自覚があるのだろう。
 平次は、それを正そうとするかのように、何度も好きだと繰り返した。
 あからさまに嬉しそうな平次を前にした新一は、

「・・バーロォ・・」
 照れ隠しに、そう言うのがやっと。

 とりあえず、身体から。
 けれど、心は以前から。
 あせらないで、伝えよう。



END♪


*おまけのさし絵*バスタオル新ちゃん*





<あとがき>
なんちゃって〜♪みたいな感じで、サラッと読み流してくださいね。
しかし、作者にとっては、ツボなネタなもので。
快斗ともやっちゃう話を考えておりますので、それは後日に。(でも、平新ベースですよ♪そこは鉄則デス)